日本舞踊の思い出

小学生時代

私が4年生の時、道を歩いていたら近所で日本舞踊を教えていた先生に話しかけられた。

「真子ちゃん、踊り習ってみない?」

その先生は夏木先生といって祖母もずっと教わっていた先生だった。

そう、あの登校班の班長と副班長も。祖母の発表会の時についていくとあの二人もいたのを覚えていた私は、まず夏木先生にあの二人がいるか確認した。

先生は「今は子供は誰もいないのよ、月謝は要らないから近所のお友達を10人くらい集めてきてくれない?」と言ってきた。

私は帰宅して祖母にその話をすると早速、夏木先生に電話をして確認し、「せっかくだから習ったら?」と言ってきた。

友達を誘っていいならと私はトモち、あーちゃん、アッキーはもちろん誠くんの妹の直子ちゃん、あーちゃんの妹雪ちゃんに声をかけた。あと4人・・・。

雪ちゃんは同級生の、真美子と千穂を誘った。千穂が隣の家の絵めぐみを誘って、もう一人は私たちの一つ上の博美が入りちょうど10人になった。

私たちは早速、その週の土曜日から夏木先生の家に行くことになった。

夏木先生の家には舞台のある練習部屋があり、周りは鏡張りで私たちはまず挨拶から教わった。

初めての経験。

正座して手をついて「よろしくお願いします。」からスタートする。

その当時の私は、自分から挨拶する習慣がなく「こんにちは。」と声をかけられない限り、自分からは無視というのが常だった。

なぜと聞かれると理由は説明できない。その頃は挨拶は一対一の時に自分からするのが恥ずかしいと思っていた。家でも祖父母とおはようもおやすみもなかったし。

なので、夏木先生のおかげで挨拶をすることができるようになったと言っても過言ではないくらいだった。

10人で踊る日本舞踊、とにかくみんながピシッと揃わないと格好が悪い。

一つ一つの動作もそうだけど、とにかく先生は姿勢にうるさかった。

いつもそんなに真面目じゃない私が、所作から直されていって3ヶ月もしたらきちんと挨拶をし、みんなで揃って踊れるようになっていた。

そして、私たちがいちばんの楽しみにしていたのが、先生がくれるおやつ代だった。

先生は1人200円の計算で練習が終わると2,000円を博美ちゃんに渡し、近所のスーパーでおやつを買って食べなさいと言った。

私たちは練習が終わってからみんなでベンチに座りおしゃべりしながらおやつを食べるのを楽しみにしていた。

そんなこともあり、みんなは休まず一生懸命練習していよいよ発表会の日が近づいた。

発表会は翌週に迫り、みんなが真剣に練習しているところになんと祖母が見学に来た。

他のメンバーの誰も親も祖父母も見学になんて来ないのに・・・私は恥ずかしかった。なんといってもいつも家でも見せない姿を見られるのが嫌だった。

「なんで来るのかなぁ…。」忘れもしない。その日、私は全く真面目にやれなかった。

いつもなら姿勢を正して、指先まで集中してピシッと踊っているのに、その日は腕も上がらないし指も伸びなかった。

夏木先生は「真子ちゃんどうしたの?」と言っていたけど、私はとうとう姿勢を正すどころか、嫌で嫌で仕方ない気持ちを隣のアッキーに「なんで見に来るんだろう。」と愚痴った。

祖母は途中で帰って行った。

練習が終わってから、いつものようにおやつを食べて帰宅すると、棒を持った祖母が駆け出してきて「このヤロー!」と言って叩き出した。

私は驚いてとにかく家の外に出た。「もう帰ってくんな!」そう言って棒を振り回すので「わかった。」と言って私は家を出た。

行く当てもない、もう暗くなりかけてる、どこに行くかな…。

私はその時、謝って家に入れてもらおうといく気は全くなかった。

というか、叩かれたり殴られたりしてる時にはどうせ謝ってもやめてくれない。

謝ってもやめてくれないなら謝り損だし、叩かれ損だからそんなことするのは無駄と思っていたし、実際そうだった。

何よりも、私は学校の授業参観でもそうだったけど、家の自分と違う外の自分を祖母に知られたくなかった。

外で一生懸命やっていることを家でも強要してくるのが何より嫌だった。

そう言うわけで出てきたのはいいが、当てもなく家の周りをプラプラと歩いていると同じ学年の菅野明がいた。

「オウ!伊藤何やってんの?」

「ばあちゃんに怒られて家出(笑)」と私が答えると明は笑いながら

「俺、カブトムシ取りに来たんだよ。一緒に探すか?」と言ってきた。

「やるやる!どこ行くの?」

「スーパーの駐車場だよ。」

そう言って、私はついさっきまでおやつを食べていたスーパーに戻った。

どのくらいの時間そこにいただろうか?2人で街灯の下をウロウロしながらカブトムシを探したけど、結局、明が1匹くらい捕まえて、私は何も捕まえられなかった。

でも、どうしようかと困っている時に明が来てくれて助かった。なんだか気持ちが落ち着いた。

「俺、帰るけどお前どうすんの?」

「うーん、どうしようかな。」

「俺一緒にお前んち行ってやろうか?」

私は迷ったけど、明が一緒なら棒で叩くことはないだろうと思い家に着いてきてもらうことにした。

家に帰ると祖母はどこかに電話をしていた。

「あ!帰ってきました!すみません。」

そんなことを言って電話を切り、開口一番

「どこほっつき歩ってんだ!」

と怒鳴りつけてきた。

明は

「おばさん、すみません、俺がカブトムシ取ろうって誘ったんです。」

「え?そうなの?明くんが?」

「ハイ、遅くまでごめんなさい。じゃ、さよなら。」

言うことだけ言って明は帰って行った。

祖父が

「まあ、家に上がれ、ばあちゃん心配してお前の友達の家に電話してたんだ。ご飯食べちゃえ。な。」

出て行けって言ったのは自分なのに、本当に出て行ったら心配して探していた?

変な話だ…。私は絶対に謝らなかった。もちろん祖母も謝ったりしない。

お腹も空いていたし、私は残ったおかずで夕飯を食べた。

この時もそうだけど、たまにこうして祖父が諭してくることがあった。

とはいえ、いつも捨てられた話をしてくる張本人でもあって、私は白々しいなと思いながら、かばってくれてありがとうなんて気持ちにもならず、その時も何を言われても返事をすることはなかった。

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