みんなと同じのが欲しい
私は小学生時代、学校の道具を全く大事にできなかった。
むしろ、早く壊れろと思いながら使っていた。
理由は簡単。
みんなと同じものを買ってもらえなかったから。
私たちの時代は、学年全員が同じ道具を使っていた。
私の子供たちの時は、道具をひとつ買うにしても自分の好みでバッグが選べた。絵の具も書道の道具も、裁縫箱も、全員が自分の好きなものを選べた。
が私たちの時代は全員が全く同じものだった。
とにかく、うちの祖母が現役の先生である実妹に「余ってる道具があったら欲しい」と言うのだ。
だから、わたしはいつもみんなと違う道具でとても恥ずかしかった。
特に男子は「貧乏で買えないのか?」とはやし立ててくる。
新しい学年になるときに学校で一括購入のお知らせが来ても絶対に注文しない。
私はそういうのがある度に「私もみんなと同じのが欲しい。」と聞いてみるが答えは絶対に「ダメ!」「いいの、おばちゃんが余ってるのくれるって!」と聞く耳を持ってくれなかった。
早く壊れますように
そんなこともあり、絵の具セットはいつも汚く湿っぽいし手入れもしないのでカビが生えていて、管理がずさんなので絵の具がなくなっても買うのを忘れていつも隣の人に少しもらったりしていた。
みんなと違うこのケースはロッカーに整然と並ぶみんなの絵の具セットの中で浮いていた。
大きいし、しっくり収まらない。
絵の具バケツも一人だけ形状が違う。
みんなのはきちんと重ねてロッカーに収納されているのに私のだけポツンと置いてある。
祖母のきょうだいは学校関係者が多かった。祖母の妹が余っている絵の具セットがあると言って持ってきたので味を占めたのか、何か必要になると次々と祖母の妹から届いた。
新品の時もあったが、中古の時もあった。
何で私のだけいつもいつも・・・違うのは嫌なのに・・・恥ずかしい・・・早く壊れてくれないかな・・・?
おかげで、何かと男子にからかわれる。それを何度説明しても「そんなの気にするほうがおかしい。」と言う。
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歌の本
確か、3年生に上がるときだったか、私の学校では朝の会や帰りの会で季節の歌を歌った。
課題の歌は毎月変わる。1月だとスキーとか、2月だと富士山とか。
そのためのポケットサイズの歌本を一括購入する申込用紙が渡された。
私は、またどうせ買ってもらえないんだからと祖母にも見せずもちろん提出もしなかった。
先生「伊藤、申込用紙出してないのお前だけだぞ?」
私「どうせ買わないと思うんで・・・いらないです。」
こんな会話をした。
先生はその日、祖母に電話をしてくれた。祖母は妹にもらうから要らないという。
何日かして、歌の本が家に届いた。みんなが注文したものと違うものだったけど祖母の妹は「どこの学校もそう変わりないから。」と言う。
そして学年が変わり、いざ友達のと比べると私の持っている本には載っていない曲がたくさんあった。
「またお前だけ違う本かよ~!」もちろん男子はそう言う。
音楽の先生も困った様子で「載ってない曲は隣の人に見せてもらいなさい。」と言うしかなかった。
私は本当に恥ずかしかった。
決して貧乏だったわけではないはずなのに、なぜここまでケチるんだろう?と不思議だった。
転校生ですら、みんなと同じでないと可哀想だ…と新たにこちらの学校の仕様に揃えて買いなおしてもらっていた。
なぜみんなと同じ道具を買ってくれないのか?もう本当に嫌だ、道具が違うことで馬鹿にされる。貧乏人だと言われるお願いだから買ってほしい・・・。
すると祖母はこんなことを言った。
お前は私の子供じゃなくて孫だ。他の孫にも買ってあげていない。まだ使える要らないものをもらって使うのの何が悪いのか?文句があるなら自分の親に言って買ってもらえ。
親に言えってどうやって?
私は、電話帳で母親の電話番号を調べた。
前に、祖父母の仕事について行ったとき(帰りが遅くなる時は連れていかれた)とある店の前で「ここがお前の母親の家だ。」
と言っていた。母方の祖父母の家も商売をしていたので、私は店の看板の名前を憶えていた。
電話番号はすぐに見つかった。
かけようか、かけまいか…
ずいぶん迷ったが、結局私はかけなかった。
かけたところで、何をどう言う?怖い母親が電話に出てきっと私は怒られるだろう。
その何年後かに、私は親戚のおじさんにもらったお小遣いで歌の本を買った。
音楽の先生がいつでも在庫があると話していたので自分で買えばいいやと。
あんなに買い渋った歌の本は確か300円くらいだった・・・。
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