真面目以外は認めない
4年生の頃、世間は【積み木くずし】というドラマが話題を呼んでいた。
穂積隆信氏が実の娘について書いたとされる実話に基づく小説。
それがドラマ化された時、祖母は私に積極的に「一緒に観よう」と言ってきた。
学校でも話題になっていたし、私も観たいと思っていたから良いのだけれど、回が進んでいくとこんなことを言い出した。
「もしこんな風に不良になんかなったら許さない!家を追い出すからな!」と。
毎回必ずそう言った。私は怖かった。
真面目じゃないと怒られる
怒られたら殴られる
殴られたくないから嘘をつく
結局、嘘がバレて殴られる。
この頃の生活はだいたいこんなループだった。
真面目じゃなくて怒られる…というのは、まず成績が悪いところからスタートする。
この頃の私は月木が森田塾で火金日がそろばん。土曜日に日本舞踊の練習に行っていた。
水曜以外は塾とそろばんで勉強漬けで土曜日は日本舞踊なのに、なぜこんなに成績が悪いの?と頭ごなしに言われていた。
間違いなくストレスが溜まっていたあの頃。
A子の母親
クラスの勉強ができる子の親と知り合いというのもあって「A子ちゃんは通知票に生活態度も申し分ないって書いてあって、ほとんどの教科が5だってよ!」と言う。
合唱コンクールのオーディションに落ちた時もA子の母親が話したせいでバレたっけな。
今考えると、A子の母親の自慢話を聞いてきていちいち比べてきて何なんだよ!と言い返せるところだけど、その頃の私はその言葉が思い浮かばなかった。
私はだんだん、そのA子が嫌いになった。
A子の母親が余計なことを言うのとA子は関係ないのだけど、彼女は優しくて友達にも好かれていて、卑屈な気持ちの自分が惨めだった。
だからいつもいつも比べられることに腹を立てて、顔を見るとイライラした。
物差し事件
ある日の帰り道、A子が1人で歩いていたのを見て、私は後ろからそっと近づいてランドセルから物差しを抜き取って走って逃げた。
「ざまあみろ!ムカつくんだよ!良い子ぶりやがって!こんなもん捨ててやる!」
口には出さなかったけど、こんな気持ちで走って走って途中の塀の上にポイっと物差しを置いて家に帰った。
次の日、学校に行くと担任の先生が「伊藤、ちょっといいか?」と廊下に呼び出した。
「お前、昨日何かしなかったか?」
先生は私から正直に話させようと優しく聞いてきた。
私は、あぁ、ヤバい怒られると思って「いえ、何もしていません」と答えた。
しばらくするとA子を連れてきて「本当だな?」と言う。
私はA子を前にして黙った。
先生はA子本人に昨日の出来事を話させて
「どっちの話が本当だ?今なら怒らないから正直に言えよ。」
と優しく諭してきた。
私は、もう正直に話すしかないと、物差しを取り上げて捨てたことを正直に話して、先生に言われるがまま「ごめんね。」とその場は適当に謝った。
放課後、A子と先生と物差しを取りに行った。
なぜか物差しはなかった。
なんてことはない、家人が学校に落とし物として届けてくれていて、伝達ミスで先生が把握していなかったのだ。
そして早々に先生が祖母に電話をして弁償するように話してしまっていた。
恐る恐る帰宅すると、いきなり祖母が殴りかかってきた。
何度も何度も殴ってきて「出て行け!」と言われて私は家を出た。
どこへ行くあてもなかったけど。家にいても殴られるだけだし・・・。
もう何度かこういうシーンがあったなと思いながら、家の周りをうろうろした。
帰りたくなかった・・・。
私が真っ暗になっても本当に帰らないので、結局、祖母が探しに来て私は泣きながら家に帰った。
嘘に嘘を重ねる罪悪感
家に帰って物差しが見つかったのもあり、少し冷静さを取り戻した祖母に理由を聞かれたけど、別に理由なんてない。
あるとしたら「あまりにも比べられたから嫉妬した。」
ということなんだけど、それはそれで本当のことを言うとまた殴られそうだ。
「A子に前に意地悪されたから仕返しした。」
私はまた嘘をついてしまった。そういえばもう終わると思ったのだ。
なのに祖母は、また先生にそれを伝えて話はどんどんややこしくなった。
再度A子と先生と私の3人で話し合いを持つことになった。
自分が拗らせたのに「先生もしつこいな…。」とそんなことを思いつつ
私はまた嘘をついて、されてもいない、ありもしないことをさもA子のせいとして嫌がらせをされたと話した。
もちろんA子は否定したが、私の嘘の意見も聞いて、先生はお互いに誤解があったようだとしてまとめてくれてその一件は終わった。
A子は「誤解させてごめんなさい。」と謝ってきたけど、私は嫌な気持ちにしかならなかった。
だってA子は何も悪くないんだから。
翌日からもA子は普通に接してくれた。私はきっと無視されるんだろうなと思っていたのに。
自分の嫉妬から、嫌がらせをして何もしてない人に謝らせたこと、
私は今でもこのことを忘れられないし優しかったA子に対して罪悪感しかない。
真面目なんてどうやったらなれるのか、その時の私は全然分からなかった。
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